第60章 君は他人ではない

有岡里穂は、別に名前で呼ぶこと自体に抵抗があるわけではなかった。ただ、いきなりそう呼ぶのは失礼にならないだろうか――と、それが少し引っかかっていただけだ。

そんなふうに考え込んでいるうちに、阿部蓮太郎は洗い終えた野菜を彼女の前に置いた。

「どう?」

有岡里穂ははっとして、こくりとうなずく。

「はい。じゃあ、蓮太郎さんは先に向こうで休んでいてください。患者さんに手伝わせるなんて、さすがに気が咎めますから」

呼び方が変わったのを聞いたせいか、阿部蓮太郎の機嫌は悪くなさそうだった。

彼はソファへ戻る。座った途端、身体の奥からじわじわと倦怠感が押し寄せてきた。

普段なら、ここまでひどく...

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